2009/11/18

「ひがしなだ.9条の会」呼びかけ人の河東けいさん、小山乃里子さん推薦の素敵な詩です、紹介します。




                わたしが一番きれいだったとき 

                                     茨木のり子

                わたしが一番きれいだったとき

                街々はがらがら崩れていって

                とんでもないところから

                青空なんかが見えたりした


                わたしが一番きれいだったとき

                まわりの人達が沢山死んだ

                工場で 海で 名もない島で

                わたしはおしゃれのきっかけを落してしまった 


                わたしが一番きれいだったとき

                だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった

                男たちは挙手の礼しか知らなくて

                きれいな眼差だけを残し皆発っていった


                わたしが一番きれいだったとき

                わたしの頭はからっぽで

                わたしの心はかたくなで

                手足ばかりが栗色に光った
 

                わたしが一番きれいだったとき

                わたしの国は戦争で負けた

                そんな馬鹿なことってあるものか

                ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた


                わたしが一番きれいだったとき

                ラジオからはジャズが溢れた

                禁煙を破ったときのようにくらくらしながら

                わたしは異国の甘い音楽をむさぼった



                わたしが一番きれいだったとき

                わたしはとてもふしあわせ

                わたしはとてもとんちんかん

                わたしはめっぽうさびしかった


                だから決めた できれば長生きすることに

                年取ってから凄く美しい絵を描いた

                フランスのルオー爺さんのようにね
               
                        生きる   
                               
                                   谷川俊太郎

                    生きているということ

                    いま生きているということ

                    それはのどがかわくということ

                    木漏れ日がまぶしいということ

                    ふっと或るメロディを思い出すということ

                    くしゃみをすること

                    あなたと手をつなぐこと



                    生きているということ

                    いま生きているということ

                    それはミニスカート

                    それはプラネタリウム

                    それはヨハン・シュトラウス

                    それはピカソ

                    それはアルプス

                    すべての美しいものに出会うということ

                    そして

                    かくされた悪を注意深くこばむこと


 
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